事業創造大学院大学

2026年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学(仮称)へ名称変更予定です。

お知らせ

2009.07.14

井本沙織さんの「ロシア経済」の講演 in Niigata(准教授 富山栄子)

環日本海経済研究所(ERINA)の北東アジア経済セミナーシリーズで、大和総研の井本沙織主任研究員の講義「ロシア経済」がにいがた産業創造機構共催で万代島ビル11FのNICOプラザ会議室であり、行ってきました。

井本沙織さんと言えば、『ロシア人しか知らない本当のロシア (日経プレミアシリーズ)』 (日本経済新聞社)の著者です!この本は新書で、ロシアのことを何も知らない初心者に特にお薦めです。なぜならば、井本沙織さんは、名前は日本人の名前ですが、実際は美しいロシア人女性で、大学までモスクワで過ごし、実際のロシア、とりわけ、モスクワでの生活が手に取るようによくわかるからです。その後、中央大学で勉強し博士号を取得。日本へ帰化されたという研究者です。

最近日本でも、日本語べらべらで才色兼備のロシア人美女が増えてきました。
本の表紙には、着物姿の井本さんの写真が掲載されています。それだけで思わず買ってしまった男性も多いのはないか、と思うほど美しいロシア人です。

さて、講義の内容ですが主として、ロシアの銀行の金利やルーブルのレートの話などがありました。講義の後、新潟大学名誉教授の小山洋司先生が、次のような質問をされました。

「ルーブル高はむしろ、ロシアの企業にとっては設備が安く買えるので良いとおっしゃいました。しかし、北海道大学スラブ研究センターの田畑先生や、西南学院大学の上垣先生などが指摘されているようにロシアはオランダ病が問題ではないでしょうか。前にもありましたが、ロシア人研究者は、どうもオランダ病への認識がないように思えます。ルーブルの実質レートが高く評価されることによって、ロシアの製造業は国際競争力を失っているのではないですか?」

というような内容だったと思います。

「オランダ病」・・・石油・ガスなどの輸出で得られる外貨収入は、ルーブルの実質レートを引き上げ、そうなると、競争力のない産業、とりわけ製造業が輸入品によって駆逐されます。これが「オランダ病」です。

これによってロシアは、競争力の極めて高いエネルギー産業と競争力の極めて低い製造業(機械・繊維工業等)の二重経済となっています。

さて、そう考えると、資源は「呪い」なのでしょうか?それとも「天恵」なのでしょうか?

「呪い」派(米国経済学者ジェフリー・サックス)によると、資源が豊かだと、資源に関係した所得が大きくなる。そうすると、収入が資源から入ってくるので企業家のイノベーションへのインセンティブが弱くなり低成長となる。

フムフム・・・。

また、別の「呪い」派(ミハエル・ロス)によると、石油があることで民主化を妨げられ、国の発展が抑制される。なぜならば、

1.石油販売によって政府は十分な歳入を得られるので、住民にあまり課税せず、歳入を使った住民への温情主義的な歳出が可能になる。その結果、反国家的な集団形成が抑制されるので、サウジアラビアやバーレーンなどのように民主主義が住民から要求されなくなる。
2.資源から得られる歳入により、国が国内の治安維持に資金を投じるので、民主主義への要求を抑圧する資金が政府にできる。
3.資源が豊富だと、教育水準の向上や都市化といった近代化が阻害されて、民主化を遅らす。

というものです。これも、中東諸国をみていると、そうだなあと思います。

一方で、資源が豊かな米国、スウェーデン、ノルウェーは経済も発展し民主化も進んでいます。ですから、資源が豊かだからといって、民主化が進まず、国が発展しないというわけではないのです。

結局、経済成長がうまくいかない資源国では、資源が知識産業にもなりえることに気付いておらず、国家政策に問題があるとされています。資源の豊富さを活用して、教育レベルを上げたり、資源関連部門の研究開発に力を入れる政策を国家が意識的にとることが必要となります。

ロシアの政治家は、「レントシーキング」に走り、資源関連部門の研究開発に力を入れる政策をとっているようには思えません。「レント」とは権益や既得権、規制などによって生まれてくる追加的な利益「超過利益」のことです。レントシーキングとは、それを得ようとするロビー活動、政治運動などを指します。

先週、京都で開催された多国籍企業学会の懇親会で、アメリカのTemple大学の日本人研究者Kotabe Masaaki先生と話をしていた中で、Kotabe先生はロシアのことを、新興市場として有望だと見ていると話しておられました。なぜならば「資源がある」からだと。
そこで、私は、ロシアはオランダ病があり、製造業が発達しておらず、産業構造が多様化しない・・・問題があると述べたところ、「ロシアには頭脳がある」とおっしゃいました。

ロシア経済を研究している先生方は、どちらかといえば、悲観的にロシアを見ているような気がします。ですので、かなり楽観的にみているアメリカ在住のグローバルマーケティング研究者のKotabe先生とのお話は、かなり新鮮で驚きました。

物事は先入観をもって決めてかかるのはよくないので、再度、そういう視点からもロシアを見ていこうと思いました。

さて、最近読んだロシア経済の関連本での一番のお薦めは、塩原俊彦(2006)『ロシア資源産業の『内部』』アジア経済研究所です。わかりやすく、ロシア経済の問題点が書かれています。中級レベルにいいと思います。

さらに、上級レベルの研究書を読みたい人には田畑 伸一郎編著『石油・ガスとロシア経済 (北海道大学スラブ研究センタースラブ・ユーラシア叢書)』がいいと思います。

ロシア経済も奥が深いです・・・・。

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