落 希一郎著『僕がワイナリーをつくった理由』(准教授 富山栄子)
「人間思い続ければできるものです。あなただって、僕だってかなりのことができます。そう、自分の人生をかければ。」
このくだりを読むと、自然と涙が出てくる。人生をかけて、誰もが何かをやり遂げたいと思っているからだろうか?
本書は「ワイン用ブドウで本物のワインをつくる」ことにこだわり続け、ワイン作りに最適な地「新潟の巻町」に最後にたどりつき、そこで人生をかけて本物のワイナリーをゼロから立ち上げたひとりの男の壮絶な創業記である。
「創業」は誰にでもできるものではない。経験と技術がないとできない。金とアイディアがないとできない。支援者がいないとできない。パートナーがいないとできない。・・・事業を興すということは容易なことではなく、誰にでもできることではない。
まして、荒れ放題だった新潟巻町の地に、支援者も誰もいないよそ者の著者が、「本物のワイン」を作るために、やってきた。コネなし。金なし。何もなし。あったのは、200万円の貯金とドイツで学んだワイン作りのノウハウだけだった。
本書は起業するには、何が大切なのか?どうやったら資金を集められるのか?という問いに対してもヒントも与えてくれている。
何が起業には一番大切なのだろうか?
それは「熱き思い」だ。輸入ワインを詰め替えただけの「インチキのワイン」が蔓延していた日本に、「ワイン用ブドウで作った本物のワインをつくりたい」という夢をもち、そして現在も「数十年後に新潟巻町をナパバレーのようにしたい」という夢を抱き続ける。新潟人なら誰もが応援したくなるような地域振興の事業でもある。
「あの時、八海山の南雲社長と加島屋の社長が支援してくれたので今日がある」と著者は言う。支援者なくして、この事業は実現できなかったのかもしれない。だが、著者には柔軟な頭脳とどんなことにもくじけずやり遂げようという情熱と根性があった。
夢は思い続ければ必ず叶うものだ。本物の夢への共感者は必ず現れる。著者は自分の夢と思いを語り続け、それが結果として支援者らに伝わり、そして支援者らが現れた。
著者は、支援者が支援してやろうと思うような数々の工夫を施してきた。そして、自分の足と頭でネットワークを構築してきた。ワイン作りという技能よりも、著者の場合、夢を語る熱き思い、販売力のアイディア、資金調達力のアイディア、人を動かす社長としての資質が成功にむすびついた側面が大きい。その能力・資質はあっぱれと言える。
ワイナリーを創業したい人だけでなく、起業を志す人、人生、どうやって生きたらいいのかもがき苦しんでいる人にもお薦めの一冊である。
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