プッシュ戦略 vs プル戦略(准教授 富山栄子)
新興市場マーケティング戦略論の授業で、院生より「マーケティング戦略において、プッシュ型とプル型はそれぞれ誰に対する販売方法であるのか?」という問題提起がありました。
プッシュ戦略は、製品を消費者の方に押していくという意味で、消費者への販売促進において企業が人的販売に重点をおき、製品をメーカー→卸→小売→消費者へと販売していくことに重点を置いた戦略。
プル戦略は、消費者を引っ張ってくるという意味で、企業が消費者に対してブランドや製品の広告を行い、消費者の需要を喚起し、販売している店舗へ足を運ばせ、ブランドを指名して購買させることに重点を置く戦略です。
新潟キャンパス院生チームの討論では、
1.プッシュは、ターゲットを絞りこんだ個別の訪問販売
2.プルは、ターゲットを広く、宣伝方法も広く全体的にアピール
東京キャンパス院生チームの討論では、
1.プッシュは、営業要人が主体であるので、営業人員がたくさん必要
2.プルは、ブランド戦略で、営業人員少ない
という発表がありました。
実際のところは、どうなのでしょう?
プッシュは、メーカーの営業マンが直接消費者に接近する場合もありますが、自社の営業力で流通業者にメリットを与えることで、自社製品の取り扱いを強化してもらうこともあります。具体的には、営業マンによる人的支援、リベート、アローワンス(メーカーが流通業者に支払う協賛金)、売り場や棚割り提案などのリテールサポートなどもプッシュ戦略に入ります。
たとえば、家電量販店に行って、どのテレビを買おうかなあと迷っていると、やたらと、あるひとつのメーカーの製品を薦める店員がいます。そのような店員は、間違いなくあるメーカーからの派遣店員です。メーカーはこのように営業マンを小売である家電量販店に派遣して人的支援をしているわけです。メーカーは間接的に消費者に「買ってよ~」と「プッシュ」しているのです。また、あるメーカーの製品だけがポイント還元アップキャンペーンをしている場合も見受けられます。そのような場合は、メーカーからリベート家電量販店へ支払われ、それを家電量販店は原資としてポイント還元を行って、顧客を店頭に引き寄せているわけです。これもメーカーは間接的に、消費者に「買ってよ~」と「プッシュ」しています。
一方、プッシュ戦略は営業マンという人的支援が主体ですので、お金も手間も時間もかかります。それゆえ、それにふさわしい製品は、
1.価格や利益率が高い製品
2.顧客に直接説明が必要な製品
3.認知度が低い製品
4.製品ライフサイクルの導入期の製品
などそれに見合う製品が挙げられます。
一方、プル戦略は、広告、宣伝、店内プロモーシヨン、パッケージングなどによって消費者に直接的にアピールします。それにふさわしい製品は、
1.購入頻度が高く、消耗しやすい
2.最寄品
3.製品ライフサイクルの成熟期にあり認知度が高い
といった製品に適しています。
しかし、実際には、プッシュ戦略なのか、プル戦略なのかと選ぶのではなく、両者を併用したマーケティング戦略が行われています。
たとえば、自動車の販売では、テレビ広告やチラシでプルし(引き寄せて)、来店した消費者にプッシュで営業を集中的にしかけています。
また、ルイヴィトンやシャネルなどのブランド品は、プルとして、女性の高級雑誌などで広告を出し、関心を引き、露出を高める一方、プッシュとして直営店を開き、丁寧な説明で、営業しています。
「どうやってモノやサービスを売ったらいいのか?」といったマーケティング戦略を考えるときにちょっぴり、役立ちそうですね。