事業創造大学院大学

2025年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学(仮称)へ名称変更予定です。

お知らせ

2008.07.23

特集 ロシアの政治とビジネス(准教授 富山栄子)

 2008年7月23日付新潟日報で前日銀新潟支店長(現金融研究所参事役)高橋英行氏の「県経済の現状と課題を聞く」が掲載されていました。

 このなかで、新潟県経済が飛躍するためのヒントとして、「いまロシアの発展が目覚しく、対岸の極東地域でも富裕層が増えている。早くからロシアとの交流を手掛けてきた本県には優位性があるはずで、このチャンスを生かすべきだ」と高橋氏は述べています。

 急激な原油価格の高騰によるロシア経済の発展により日本企業のロシア進出は増加傾向が続いています。トヨタ自動車は現地生産をすでに開始し、日産自動車、スズキ、三菱自動車も続々と現地生産を始める計画です。日本の自動車企業のみならず、フォード、GM、ルノーなどの欧米系、および現代自動車などの韓国企業にとり、ロシア市場は魅力的な市場となっています。実質個人所得は増加し、消費水準も向上しています。国際収支規模は膨張し、外貨準備は巨大化し、ルーブル対外価値は上昇し、財政規模は拡大し、黒字が持続しています。

 一方で、階層間・地域間・業種間には大きな所得格差が存在します。汚職が拡大し、治安官僚(検察、警察、特務機関等)による、もしくはそれを巻き込んだビジネスに対する恐喝、強奪などの「レイダー行為」とよばれる攻撃的な違法行為が蔓延しています。ロシアでビジネス展開するには政府権力の介入を避けることは難しいのが現実です。また、企業債務は膨張しており、13%ものインフレが進み、人口減少、人手不足も深刻です。経済の非効率化が進み、エネルギー分野は政府系企業が支配する独占化が進んでいます。汚職により、公正な競争ができず、中小企業も育成されていません。

 プーチンが退任し、後継にメドベーデェフ大統領が就任しましたが、前大統領が首相として国政への強い関与を継続していることにより、「タンデム政権」と俗称される特殊な権力状況が生じています。プーチン前大統領はエネルギー産業を戦略産業と位置づけ、国家管理を強める政策を取ってきました。政府系の1000社強を戦略企業と位置づけ、外資などの投資を制限しましたが、結局、シロビキや官僚らによる利権争いの舞台となってしまいました。また、ユーコス消滅を契機にロシアの産油量は伸び悩んでいます。その一方で、東シベリアから極東に至る地域には油田開発、パイプライン建設、関連機械・設備など日本企業にとって有望な商機が溢れています。原油の対日輸出が始まれば、中近東依存度を大幅に引き下げることが可能となり、イランに代わる原油調達先にできます。

 以上のような内容で、このたび初めてある雑誌の特集を企画しました。「特集 ロシアの政治とビジネス」月刊『ロシア・ユーラシア経済』8月号です。ロシアの政治とビジネスに焦点を当て、その現状と課題について議論したものです。執筆メンバーと論文のタイトルは次の通りです。http://www.t3.rim.or.jp/~yuken/sub2.html

1.月出皎司(前新潟県立女子短期大学教授)「「タンデム政権」と産業政策」
2.坂井 光(日本経済新聞社モスクワ支局長)「ロシア市場の特殊性 ―政治に翻弄されるビジネス」
3.中津孝司(大阪商業大学教授)「メドベージェフ新政権とエネルギー資源ビジネス」
4.富山栄子(事業創造大学院大学准教授)「外国大手自動車メーカーの対ロシア戦略―フォード、ルノー、GM、現代自動車を中心に―」
5.〈書評〉吉田一康・畦池裕・岡田邦生・芳地隆之・中居孝文著『ロシアビジネス成功の法則』

 ビジネスには、参入国の経済指標だけではなく、政治などのマクロ環境を知る必要があります。ロシアビジネスに関心がある人には非常に有益な情報(とくに政治とビジネスについて)満載となりました。私の論文内容はたいしたものではありませんが(自動車メーカーの経営戦略に特化して執筆したため、政治的側面まで触れられていません。その分他の論文と比べると薄っぺらな内容となっています)、その他の論文からは得られるものは大です。