事業創造大学院大学

2025年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学(仮称)へ名称変更予定です。

お知らせ

2008.05.29

徹底的な議論・討論はなぜ必要か?―「弁証法」に学ぶ―(准教授 富山栄子)

 野中先生は3年間の経営戦略論の集中講義の中で「弁証法」の大切さを繰り返し、おっしゃってこられました。一体これはどういうことでしょうか?

 弁証法は意見や仮説など、人間が考えたものには必ず相反する考えがあって、これをぶつけ合って議論していくことで、より真実に近づいていこうとします。大切なのは、「正」「反」から「合」が目指されるところにあります。「正」と「反」を建設的に戦わせて「アウフヘーベン」(止揚)を起こして、さらなる高みを実現させます。「正」「反」「合」のスパイラルによって、単なる妥協ではない、より高い次元の真理に昇華するプロセスで、こうだったらこうなんだ。お互いにいいところがあるんだ。だから、互いに超えていこう!と問題を深く考えていくと真実に近づくことができるという知識方法論です。

 「反」によって、自らの意見を否定され、矛盾点を指摘されることは結構つらいことです。ですが、その矛盾点を「なぜ?」「なぜ?」「なぜ?」と、とことん追求していくと、中途半端に妥協することなく、「最善の解」は何かを追求することができます。そのことにより、より真実に接近することができます。共に討論する人たちとの共同作業によって、ひとりで考えた自説に固執することなく、それまでの自己の知識や能力を超えた新たな解決策が、眼前に広がってきます。

 ここで、大切なのは、建設的な批判・討論です。最初から、相手を立ち直れないないほどけなしたり、つぶそうというのではなく(学会では極、稀にではありますがこういうケースが見られます)、より良いものを生み出すために、建設的な批判・討論をするのです。矛盾点をあからさまに批判できない場合は、それをついた質問するのです。そうすることで、相手は問題点・矛盾点に気づきます。質疑応答、議論を繰り返していくことで「合」が生まれていくのです。

 部下や子供と話をするときも、最初に結論ありきではなくて、あくまでも仮説であることが大切です。つまり、「なんでこうしないの?」「こうしなさい」ではなくて、「私はこう考えるけど、君はどう思う?」そして、相手に反論の機会を与えさせる。議論することで、最善解を生みだす。そうすれば、一方的に命令されたと思うのではなく、納得することができます。

 「自己は間違いことがあることを謙虚に自覚し他者との対立・関係性を媒介にして自己をより高い次元に発展させる。」(野中先生)

 すなわち、たえず、謙虚に、人の意見を聞く耳をもち、とことん議論していけば最善解が生み出され、自分ひとりで考えるよりも、さらにより高い次元へ到達することができるのです。自分ひとりで考えて悩むよりも、周囲の人に打ち明け議論すると、新たな展望が開けてきますよね?

 また、社内だけではなく、いろんな業界、バックグランドの人と議論することで、多くの視点から矛盾点・問題点に気づかせてもらえ、さらに良い「合」を生み出すことができます。ですから、できるだけ、さまざまな人と知り合いになり、いろんな討論を重ねていくことで、ビジネスプランでも何でも、より高い次元の真理に昇華した最善解を生み出すことができます。

 そのためには、「ビジョンに基づいて、知を総動員する場の生態系を構築する」(野中先生用語)ことが必要です。すなわち、顧客、パートナー、大学、地域社会、政府などすべてを巻き込み、「場」を共有する(共に考え議論し行動する)ことが大切です。

 「共通善」(世のため、人のため)に向かって、こういう社会を実現したいというビジョンを掲げ、周囲を巻き込み、「場」を共有し、妥協せずに徹底的に議論を重ね、「なぜ」「なぜ」「なぜ」を繰り返し、突き詰めていくと、利益は後からついてくると、野中先生は私に教えてくださいました。