事業創造大学院大学

2026年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学(仮称)へ名称変更予定です。

お知らせ

2009.06.16

多国籍企業学会研究会ロシア特集(准教授 富山栄子)

週末に多国籍企業学会東部部会が東京の東洋大学でありました。多国籍企業学会はBRICsをテーマに研究会を行っており、今回はロシア編でした。ロシア編ということで報告の依頼を受け、東京まで行ってきました!

報告者
1.遠藤寿一氏(三菱商事株式会社業務部顧問CIS担当 / 社団法人 ロシアNIS貿易会顧問 ロシアNIS経済研究所長)
  「サブプライム後のロシア政治経済と外資企業の対応」
2.富山栄子(事業創造大学院大学)
  「ロシア自動車市場の動向とロシア市場における中国民族系自動車メーカーの台頭」

さて、遠藤氏の報告によると、金融危機は、国家統制を強めて西側との関係を弱めようとしたがっている、シロビキ(内務官僚など)と呼ばれる強硬派の立場を強めることになった。ロシア政府内の政治的な対立は、経済リベラル派(経済の開放を進めてさらなる改革を支持する)と強硬派(閉鎖的で民族主義的な経済モデルを望み治安機関とのつながりの強い)の間に生じている。メドベージェフは、大統領就任後、強硬派の人脈の入れ替えを行って、その勢力を分散しようとしたが、金融危機は皮肉にもこれらの勢力の復活を後押しした。

ロシアにはロシア経済悲観論(リベラル派)と楽観論(保守派・強硬派)の対立がある。
リベラル派は、クドリン副首相兼財務相や、シュワーロフ第一副首相である。クドリン副首相は、歳入の根拠が楽観過ぎるとしている。シュワーロフ第一副首相は、見通しは悲観的であり、この危機は少なくとも3年は続く。グレフ・ズベルバンク総裁も悲観論者で、彼は銀行危機は始まったばかりで、企業・個人ローンの焦げ付きが急上昇して、銀行業界は大打撃を被るだろうと予想している。

一方、ロシア経済楽観論者は、中銀イグナーチエフ総裁で、彼は、最悪の事態は過ぎ去り、景気は既に底を打った。また、プーチン首相も楽観論者で、彼は2010年にはプラス成長に転ずると予想している。

さて、後3年続くのか?それとももう底を打ったのか?誰も正確に言い当てることはできません・・・・。

日露貿易関係では、2006年まではロシアから日本への輸出は非鉄金属が占める割合がトップであったが、2007年から石油ガスの輸出が増大している。これはサハリンから日本の電力会社やガス会社が購入し始めたものである。これまで日本は中東へ石油の90%を依存していたが、今後は10%はロシアに依存することになる。その割合は益々増えていくだろう。

この面では日露関係は強まりそうです。

研究会は、13時半に始まり、私の報告に対しても多くの有益な質問を頂戴しました。質疑応答の後、ゲストスピーカーである遠藤氏と私が2人で前に出て、パネルディスカッシヨンが行われました。議論は盛り上がり17時半まで続きました。

ロシア経済はどうしてもオランダ病によって、為替が高めになるので、製造業の競争力が弱くなります。とくにロシア極東は、人口が急減している一方、中国が経済的に進出してきています。2012年にAPECがウラジオストクで開催される予定です。ロシア政府が実現への威信をかけた徹底した方針を打ち出していますが、極東住民の間ではいまだ中央への不信感と実現への懸念が渦巻いています。極東連邦管区大統領全権代表に史上初めて中央からではなく、地元から18年間ハバロフスク知事を務めたイシャーエフ知事が昇格しました。このことは、地元住民からも高い評価を受け、連邦政府の極東重視であることを裏付けています。この一年間、メドベージェフ大統領、プーチン首相が極東訪問を頻繁に行い、それまで疎遠であった極東地域との対話が恒常的に実施されてきました。ロシア側としては日本から極東へ製造業で投資してほしいのですが、極東は市場として小さく分散しているので、これも立地戦略からみて難しい問題です。結局、日本はロシア極東に対してエネルギー以外の分野で何ができるのか、明確な答えは出ないままでした。