富山ゼミで農家レストラン「弥次郎」へ行ってきました!(准教授 富山栄子)
11月24日(月)富山ゼミ+希望院生で弥次郎農園の農家レストランへ行ってきました!ゼミ生のひとりが、農家レストランに関係のある事業計画書を作成中なので、皆でヒアリング調査を兼ねて、実際に農家レストランを体験してきました!
経営者は新潟では有名な諸橋弥須衛(もろはしやすえい)さん。諸橋さんは2008年9月、農林水産省が各地域で地産地消に意欲的に取り組む全国48人のおひとりに選ばれた「地産地消の仕事人」です。野菜の収穫体験等の圃場(ほじょう:作物を栽培している農地)の提供やビオトープの設置によって、保育園、小学生、料理専門学校の学生、生協関係者、専門家等などを対象として、農業に対する理解促進に努めています。農業をよりたのしく、より身近に感じてもらうために、農家体験学習を開いています。保育園児にはさつまいもほり、専門家には野菜や米づくり、県外の消費者には消費者講義などをしておられます。
諸橋さんと奥さん、農業をやるために山形から来て従業員として働いている男性、近所の主婦など合計8名の従業員がいます。米、ナス、トマト、大根、枝豆、イチゴ等の栽培、ナス漬、白菜や大根の漬物などの加工、餅やジャム作り、そして農家レストランが主たる事業分野です。
弥次郎農園といえば、甘~いいちご「越後姫」で非常に有名です。ロシアなどの外国からもイチゴ刈りで大勢の人が訪れています。ここのいちごは農薬を少ししか使ってませんので、、取ったいちごをそのまま洗わないで食べることができます!今ではロシア極東へ越後姫を輸出しています。ロシア大使や総領事がここを大変気に入り毎年訪れているそうです。ロシア大使から鮮度がよく品質のよい越後姫を是非ロシアへ輸出してほしいという熱烈なラブコールに応えて輸出が実現しました。すでにロシア極東の販路を開拓し、今後もずっと続けていくということでした。
諸橋さんのビジョンは非常にグローバルです。ターゲットは1.地元(地産地消)2.県外、3.海外と、海外市場を中長期的な視野で見ておられます。そして、海外市場の販路を自社で開拓しておられます。素晴らしい!
美味しくて安全な食べ物を安心して食べて喜んでほしいという願いから、諸橋さんは有機質肥料を主とした栽培に取り組み始めました。
トマト、イチゴも、有機質肥料を主とした栽培です。稲藁やもみがらを田んぼや畑に入れて堆肥にし、土壌作りに励んできました。本当に美味しい作物を作るのに大切なのは「土の力」だそうです。美味しいイチゴづくりは、土づくりが基本で、土をしっかり作ると虫がつかないのだそうです。それが環境保全にもなっています。
有機質の肥料による栽培は、堆肥作り、土壌作り、草取りなど、大変な労力と手間がかかります。コシヒカリの藁が堆肥となり,堆肥が肥料となり、肥料が肥沃な土を育てます。こうした栽培方法ですとトマトもイチゴも香りが出るそうです。トマトやイチゴなどの弥次郎農園の野菜はブランド化され、新潟市のシルバーホテルで弥次郎農園の甘くておいしい野菜を使ったレシピを提供しているそうです。今後も、栄養価の高い野菜をつくっていきたいということでした。
お米も無農薬栽培です。コシヒカリの無農薬栽培は総合生協から要望があり6年前に始められたそうです。コシヒカリは合鴨農法で、アイガモを利用して無農薬農法を行っておられます。アイガモは田植えの時期に、生まれたての雛を購入・放鳥します。アイガモを放飼することによって、雑草や害虫を餌として食べてくれます。また、アイガモの排泄する糞尿は、有機肥料となって稲の成長に役立ちます。しかし、アイガモは決まったところしか歩かないのだそうで、雑草はそこしか食べてくれないのが問題です。
来年用のアイガモの雛たちの先導のために今年のアイガモが5匹残っています。田んぼの周りにネットを張りアイガモ達が逃げないように、犬に襲われないようになっています。
お米は有機栽培だと価格が下がらず、手間をかけただけ付加価値が認められ、通常の栽培方法によるこしひかりよりも高い価格(10kg7,000円)で販売されています。新しい除草法で6年間やってこられましたが、すべて1等のこしひかりだそうです。そしてJAS規格の認定機関が糸ミミズの一定面積当たりの数を調べにきて、「有機栽培」のJAS規格も取得しているそうです。
また、諸橋さんは、休耕田を、ビオトープ(bio(いのち)のtopos(場所):生物群集の生息空間)として開放しています。そこには、メダカ、ザリガニ、糸トンボ、ドジョウ、カニ、トキ、カワセミなどがいて自然環境の再生にもなっています。ここへ子供たちは遊びにきて子供たちの環境教育の場としてよい遊び場にもなっています。
農家レストランの建物は、国登録の有形文化財となっています。ここでは自家生産の米や野菜を使った地産地消メニューを提供しています。食事は、野菜を中心としたヘルシーな田舎料理で、とってもおいしかったです。こういう日本の伝統的なおかあさんの味でこうした和食を簡単に作れる人をお嫁さんにもらうと男性は幸せだろうなあ。こういう料理を毎日食べていれば糖尿病などの成人病にはならないだろうなあというようなお食事でした。無農薬のこしひかりは、お米がひかっていて、ねばりがあり、新潟出身のお米にはうるさい我々でさえも感動するくらいのおいしさでした!ご飯は、もちろん、ほぼ全員がおかわりしました!
諸橋さんは消費者との交流歴が長く、その活動範囲も広いです。農産物直売所(JA新潟市ほほえみ産直広場)の開設にも関わり、直売所の代表として、作物の計画的作付けと参加農家間の出品調整などについて、直売所の経営が軌道に乗るまで尽力してきました。「見てさわって食べてもらうと理解が早くてっとり早い。」と諸橋さんはおっしゃいます。
こうした交流をしているうちに、消費者がリピーターとなり、農園まで直接買いに来てくれるようになったそうです。売上の70%はお盆の時期の茄子漬、枝豆の宅配だそうです。
さて、諸橋さんの活動をマーケティング的に分析するとどのようなことがいえるのでしょうか?
1.諸橋さんは、どのようなことを考え、その実現のために何をやっているか(農業の大切さを理解してほしい。安全でおいしい農作物を食べてほしい)という理念を世の中に知らせていく広報活動をさまざまな手段でやってこられました。消費者に、自社が提供している商品サービスの価値、すなわち、有機栽培の価値に関心を向けてもらい、その価値をよくわかってもらおうとしました。さまざまな場所での消費者講義や講演、各種活動を通じて、できるだけわかりやすく伝えてきました。いかに有機栽培に手間をかけ、苦労しているのか、そのこだわりは何なのかを顧客にわかってもらえなければ、自社にとっての価値が顧客にとっての価値になりません。どんなにいい商品サービスを手間をかけて作っても、それを「大したことないじゃないか」としか顧客が感じないようであれば十分なお金はもらえません。企業が理念をもってやっていることをいかに顧客に伝え、顧客をとりこにしていくか、顧客に自社の商品サービスの価値がきちんと伝わることが大切です。顧客にも有機栽培の良さを理解し、そうした栽培方法で栽培した農作物を購入してもらう必要があります。多くの顧客がそうした価値を認め、顧客が購入してくれることで、ブランドになります。ブランド構築は、こうした広報活動が実を結びます。
2. 農業体験や農家レストランを体験してもらうことで「有機栽培があなたにとって価値のあるものなんだ」ということを顧客に体験を通じて広めていきました。食べてもらってそのおいしさに感動させることが大切です。感動すると人は動きます。そのおいしさに感動すると弥次郎農園から買うようになるのです。伝えるだけでなく、それに共感してもらい、実際に買ってもらう。この循環の輪が大切です。顧客は自ら共感し消費します。有機栽培をしっかりとやっている諸橋弥次郎農園から購入したいという優良顧客を育てていくことが鍵です。自社がやっていることの価値のわかる顧客を育て、社会にもその価値を理解してもらわなければなりません。
3.人間的なコミュニケーシヨンを行い、顧客コミュニティを育成しています。ロシア大使などの大物キーパーソンと親しくなり、自分がなぜこうした農法を行っているのかということを自分からオープンに語っています。こうして自分をさらけだすことによってお互いの精神的距離が近くなり、あちらこちらに諸橋さんのファンが生まれています。自社がやっていることに喜んでお金を払う顧客をたくさん育てることへとつながっているのです。
諸橋さんは今後、益々応援していきたいグローバルな視野をもった農家経営者でした!