事業創造大学院大学

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お知らせ

2008.11.12

京都大学上海センター主催中国自動車シンポジウム「持続的成長は可能か」に行ってきました(准教授 富山栄子)

11月1日(土)に京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホールで中国自動車シンポジウム「持続的成長は可能か―サステイナビリティと製品開発力、輸出競争力―」というシンポジウム(主催:京都大学上海センター、共催:京都大学上海センター協力会)が開催され、私も「なぜロシアで中国車が売れるのか?」というタイトルで報告をしてきました。観客は総勢260名、このうち東京方面から約半分とのことで大規模なシンポジウムであり、中国の自動車業界に対する関心の高さ、京都大学上海センターの研究への関心の高さを示していました。シンポジウムの内容は次の通りです。

京都大学大学院経済学研究科教授 塩地洋 持続的成長のための課題―全体テーマと報告構成―
[第1部サステイナビリティから見た中国自動車産業]
関西学院大学産業研究所 准教授 ブングシェ・ボルガー 「環境・燃費・事故・渋滞」
フォーイン 第一調査部部長 周政毅 「次世代低公害車の技術開発動向を探る」
桜美林大学 リベラルアーツ学群講師 平岩幸弘 「廃車リサイクルの現状と課題」
野村総合研究所 グローバル戦略コンサルティング部部長 北川史和 「地域所得格差と需要の偏在性」
東京海上日動火災保険上海支店 総経理助理 八木健一「自動車保険の現状と課題」
[第2部製品開発力と輸出競争力]
元本田技研工業 山口安彦 「海関統計から輸出の実相を解明する」
京都大学大学院経済学研究科 李澤建 「奇瑞における製品開発組織の進化」
事業創造大学院大学 准教授 富山栄子 「なぜロシアで中国車が売れるのか」
豊田汽車(中国)上海分公司 主査 東和男 「中国自動車産業の持続的成長の道」

2007年の世界自動車販売台数では、1位 アメリカ1614万台(22.7%)、2位 中国878万台(12.4%)、3位 日本535万台(7.5%)と、中国はすでに日本を抜いて世界第2位の自動車販売台数を占めているのです!

中国車といえば、安かろう、悪かろうというイメージが先行しますが、豊田汽車(中国)上海分公司 主査 東和氏の報告によれば、開発体制は産・学・官 三位一体(自主ブランド政策)、乗用車及び自動車部品は外資系主導の開発体制、商用車は民族系主導の開発体制で、次世代自動車の開発体制も急速に進んでいます。
 ・燃料電池バスプロジェクト  北汽グループ・清華大学
 ・燃料電池乗用車プロジェクト 上汽グループ・同済大学
 ・電気自動車プロジェクト  多数の大学(GM・トヨタ協力)

中国の統計によると、中国自動車メーカーの最大の輸出先はロシアです。ロシアへは中国から年間107,791台(2007年:乗用車41,361、オフロード車12,827台、マイクロバス 11,016台、トラック39,232台)が輸出されています。
ちなみに、2007年の輸出仕向け先上位3カ国は1位ロシア、2位シリア、3位ウクライナ、2008年上期は1位ロシア 2位ベトナム、3位ウクライナでした。

私の報告では以下の点を指摘しました。
1.広大なロシアで潜在的な需要が大きい。
2.価格において品質に問題をかかえる安いロシア車と競合
3.見栄えのするデザイン(日本車とそっくりなデザイン)とスタイリング
4.低価格を第一に評価する消費者の存在:品質を見る目がまだ厳しくないユーザーがいる、低品質の自動車でも売れてしまう市場環境(品質は悪いが、ヨーロッパ、アメリカや他の先進国でも購入されている。):(「支配的なアーキテクチャを決めるのは顧客」。顧客が擦り合わせアーキテクチャの洗練性を重視するか、モジュラー・アーキテクチャがもたらす多様性と低価格を重視するか、答えは国により、製品のタイプにより異なる。)
5.中・低所得者の移動手段:自動車は所有者のステータスシンボルであるばかりでなく、通常の移動が不可能であるので重要な交通手段となっている。
6.中国内部市場からの強い圧力:中国国内で外資ブランド車との激烈な競争が続くなか、奇瑞汽車(安徽省)や吉利汽車(浙江省)など新興民族系メーカーは輸出に活路を求めている。
7.最新技術の固まりのハイブリッド車に取り組むほど、中国の自動車メーカーの技術力は向上している。輸出先も中近東や東南アジア、ロシアなどから、欧州など先進国に広がりつつある。
8.ロシアのディーラー制:異なるブランドの販売店を展開するディーラーグループ(メガディーラー)。有力なロシアのディーラーグループが中国車を販売。ロシアのディーラー・グループの特徴は、所有フランチャイズ(ディーラー選択)において、特定メーカーのフランチャイズ(ディーラー)に偏らず、ポートフォリオ戦略をより積極的に駆使している。
9.ロシア市場は、高級車では独、仏、日が競い、中流層は韓国車を購入。ロシアで増大し始めた中・下流層に照準を合わせた自動車商戦に中国が参加している。
10.ニーズに合致した品揃えと便利な地理的立地:SUVがロシアで売れるのは、ロシアの道路事情が悪いこと、秋冬が長いこと、燃料価格にあまり敏感でないことによる。中国のGREAT WALL Hoverが売れている。
11.丈夫で手頃なGreat Wallのオフロード車はシベリア・極東でも以前から人気がある。ロシアには顕著な所得格差、地域格差が存在する以上、都市部の低所得者層、広大な地方の農村部や内陸部に潜在的・現実的な需要があるので、価格弾力性の大きい低価格車の生存空間がある。

また、中国の民族系自動車メーカーの代表である奇瑞汽車の車種開発に関して、京都大学経済学研究科の李澤建氏は、多様な社内外資源の組合せによって、複雑すり合わせ需要へ対応していると結論づけられました。
1.コスト競争対応の徹底的低コスト追求製品の投入の場合:
完成車設計会社「蕪湖佳景科技有限公司」が一貫して、デザイン・設計開発する(超低コスト競争優位)
2.デザイン性が高い車をコスト需要に見合わせて投入する場合:
①海外でデザインして、完成車設計会社「蕪湖佳景科技有限公司」が設計開発(コスト競争優位)
②海外でデザインして、乗用車研究院が設計開発した場合(技術競争優位)
→技術優位性とコスト優位性の積極的発揮が可能
3.ほかの補足手段(IATによるデザイン・設計や、高級車開発の部分的海外委託)

また、最後に、トヨタの東氏は
1.中国の自動車産業は持続的成長をする可能性が大である
2.近い将来低価格自動車で世界市場を席巻
3.恐るべし!中国の自動車産業
と述べられました。

その後の最終総括で、京都大学経済学研究科の塩地 洋教授は1.中国の自動車産業は持続的成長をする可能性が大である2.恐るべし!中国の自動車産業については、そうであろうが、3.近い将来低価格自動車で世界市場を席巻については、先進国企業も低価格自動車の開発に着手しており、どうだろうか?とまとめられました。

今回のシンポジウム、非常に勉強になったほかにも、いくつかの点で非常に感動しました。
1.京都大学の知識に多くの産業界が注目し、助成していること、産官学の理想的な形であることです。シンポジウムは京都大学上海センター協力会(個人会員年会費1万円、企業会員10万円)の助成で実施されており、会員になれば、データが入手できるほか、上海センターレターニュースをメールで受け取ることができます。すでに数百人もの会員を抱えており、それだけ社会に還元できる魅力的な研究を大学が行っているということです
2.民間企業、各種研究所、大学というさまざまな機関からさまざまな出典(中国語、英語、ロシア語ほか)のデータを持ち寄り、さまざまな角度から研究すると、それぞれひとりの力だけでは到底解明できなかったことが見えてくるということ。当たり前のことですが、それを実現させているところが実に素晴らしい!
3.日本海対岸貿易、とくにシベリア鉄道の利用について、関西でも熱い視線を送っているということです。

恐るべし!中国の自動車産業! 
見習いたい!京都大学経済学研究科上海センターの産官学の取組みでした!