事業創造大学院大学

2025年4月、事業創造大学院大学は
開志創造大学(仮称)へ名称変更予定です。

お知らせ

2008.07.03

行列ができるバームクーヘン ~ねんりん屋~ (准教授 富山栄子)

いつも東京のお土産は時間がないので駅構内の崎陽軒のしゅうまい、ひよこ、東京ばなな、ごまだんごなどを買い求めます。時間があるときは大丸1Fの銀のぶどうの白ららを買います。ふわふわチーズケーキがすっかり気に入り、これまで10回以上買ってきました。

ところが、最近、その大丸1Fで長蛇の列を発見!それはねんりん屋のバームクーヘン。
その行列を最初に見たときは「何で並んでいるのだろう?」程度にしか思いませんでした。「バームクーヘンに行列」??そのうち、東京駅の大丸の脇を通るたびに、いつもバームクーヘンを求める人の行列があるので、気にかけるようになりました。

子供に聞いたところ、「それ、テレビでやってたよ。今度買ってきて」というので、先日、大丸1Fの行列に並んで買ってきました。行列はあっという間に進み、待つこと10分くらい?お客さんは若い人、とくにカップルが多かったような気がします。
「やっぱ、ここに来たら3マウンテンか5マウンテンだよなー」と彼女との会話が聞こえます。50歳以上(と思われる)女性も多かったです。ある方は地方へ山のように発送してました。バ-ムクーヘンを地方へわざわざ発送するのです!行列に並んで!

「マウントバームしっかり芽」3山は4,725円、5山は7,875円もします。バームクーヘンでこの値段の高さ!一体これは何なんだ?と思いつつ、若者の会話を思い出しながら「マウントバーム」3mountainと「ストレートバーム」などを購入。これまでにないゴージャスなバームクーヘンで、まるで、骨のまわりに肉がついたアイスバインのようです。

「マウントバーム」はバームクーヘンのフランスパン。皮はカリッ、内は熟成。
「ストレートバーム」はバームクーヘンのカステラ。ふっくらでジューシー。
私としてはフランスパン的なバームクーヘンが、甘くておいしかったです。皮はカリッ。この点が実に美味。

子供たちはケーキカットをするような感じで大喜びで大きな3マウンテンを縦に切り分けて食べました。切り分けて食べる体験がパーティーのような感じで実に楽しい雰囲気です。

さて、マーケティング的にいうと、私が取った行動は、行列をみてAttention (注意)し、人々が行列に並んでまで買うバームクーヘンにInterest (関心)をもち、子供にリサーチしてSearch (検索)し、購入というAction(行動)をおこし、ブログに書いてShare (商品評価をネット上で共有)してます。まさに、AISAS(エーサス、アイサス)モデルそのものです。

Attention (注意)

Interest (関心)

Search (検索)

Action(行動)

Share (商品評価をネット上で共有)

この会社の年商は188億円です。すごい売れ行き。このバームクーヘンのコンセプトはよくわかりませんがおそらく「未だ現実には存在しない、その先のバームクーヘン」であり、こだわりは「素材、合わせ、炎。年輪と呼べる歳月をかけて、窯をくぐりぬけた、ようやくの味わい」というところでしょうか?

想像するに、おそらく「ねんりん家」という会社は、素材と製法にこだわり、これまでになかったバームクーヘンを作ろうとしたのだと思います。会社の当初のコンセプトは「素材・製法にこだわった上質の未だ現実には存在しない、その先のバームクーヘン」だったのだと思います。
それが、TVで取り上げられたり、口こみで広まり、いろんな人が行列に並んで買い求め、実際に食べてみて経験をし、私のようにブログで発信をし、それぞれの思いや食べ方を周囲の人たちに伝え合い、やり取りしながら、さらなる行列へと繋がったのだと思います。

当初の会社のコンセプト「素材・製法にこだわった上質の未だ現実には存在しない、その先のバームクーヘン」はやがて、私のような一般人の経験に基づいた新たな体験に基づく評価を加えて、「仲間や家族とわいわいガヤガヤ楽しめる、これまでの常識を打ち破るゴージャスなバームクーヘン」という新たなコンセプトへと昇華してきているのだと思います。最初に会社が考えていたコンセプトが、顧客の経験によって変化しており、これがさらなる大ヒットへと結びつく可能性はあると思います。

今の時代、少数の影響力のある人が社会のトレンドを作るのではなく、一般人がネットや日常会話などで情報を共有し発信しあい、互いに影響を与え合うことで、社会のトレンドは形成されます。たとえば「ねんりん家のバームクーヘンはこれまでにない味でおいしい」という共感が周囲に共振拡大させながら、大きなうねりとして広がっています。

さて、私はおいしかったので、また「バームクーヘンのフランスパン」をお土産に買おうと思ったのですが、意外な本音も聞かれました。

子供1.(食べ過ぎて)「もう飽きた」
子供2.「バームクーヘンのカステラ」の方が「フランスパン」よりおいしい。それより、「白らら」の方がおいしい。「白らら」をまた買ってきて!
子供3.「バームクーヘンはデブになる。にきびができる・・・」
大人1.「バームクーヘンのカステラ」の方がおいしい・・・。

新潟peopleは「新し物好きで、あきっぽい」と昔から言われておりますが、そのとおりのようです・・・。

また、過剰包装がいただけません。新潟peopleは6月からごみが有料化され、ごみ問題にはうるさいです!ごみはできるだけ減らしたいのです。それなのに、3マウンテン、5マウンテンは実にゴージャスな箱に入っています!実にもったいないと感じました。

この会社の流通チャネル戦略ですが、ショッピングモール(楽天、Yahoo)も単独でのネットショップもやってません。お店に出向かないと買えません。地方に住む人が買うには東京の知人に頼むか、東京まで行かないと買えないのです。だからこそ、さらに行列ができるのでしょう。その行列に、一般人はInterest (関心)をもち、AISAS(エーサス、アイサス)モデル行動を取り、大ヒットのうねりと化しているのではないかと思ったのでした。

参考文献
ダンカン・J・ワッツ(コロンビア大学 教授)「流行が起こる本当のメカニズム」『ハーバード・ビジネスレビュー』2007年5月号。