事業創造大学院大学

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お知らせ

2011.10.13 イベント

外務省大臣官房審議官・北野充氏 【特別講演レポート】

外務省大臣官房審議官・北野充氏 【特別講演レポート】
 
 
外務省 大臣官房審議官 北野 充 氏
2011年6月18日(土) 「大災害とBCP(事業継続計画)」
 
 
2011年6月18日(土)、外務省・大臣官房審議官を務める北野充氏により、特別講演が開催された。「東日本大震災後の日本とアジア」と題した講演には、院生・一般の方を合せて、約50名の受講者が参加。

≪日中韓サミットの経験から≫
5月21日・22日に第4回目を迎える日中韓サミットが日本で開催されました。私は、このサミットの開催にあたり、計画・準備を担当しましたが、その最中の3月11日、東日本大震災が起こりました。

サミットを行うに当たって、中韓両首脳に被災地を訪問していただきました。温家宝首相は、「自分の判断で福島に来た」と現地で述べました。
このような指導者の判断、行動は強い「メッセージ性」を持ちます。
サミットに出席した中韓両国の首脳は、被災地を訪れ、現地の地場野菜を食しました。

世界の人々の日本に対する意識<パーセプション>は、日本全土を「福島原発周辺地域」のように捉えており、日本産食品の厳しい輸入制限が行われています。われわれとしては、「日本全体が福島原発周辺地域であるわけではない」ということを知ってもらいたいと思いました。中韓両国首脳に福島に行っていただいて、地場野菜を食してもらうということは、強いメッセージ性を持ちました。

どうしてこのようなことが重要なのか。パーセプションは、意識の世界だけにとどまるだけでなく、実体経済とも結びついています。輸入制限という実体経済で生じている問題に対応するためには、パーセプションの世界で強いメッセージを出していくことが必要なのです。

≪東日本大震災による「日本とアジアの変化」≫
今回の震災に際しては、159の国と地域、43の国際機関から支援を受けるという国際社会から前例のない支援を受けました。多くの国々は日本に対し、「何かあると真っ先に助けてくれた」ことに対する「恩返し」の気持ちから支援をしてくれました。このことは、国際関係・国際政治を考えるときに大変重要です。

国際政治・国際関係を捉える理論としては、①リアリズム:国益のぶつかり合い、②リベラリズム:人・モノの行き来による協調、③コンストラクティビズム:人の主観・意識を重視、この3つの理論があります。

実際の国際政治・国際関係は、この3つの見方の総合により成っており、この3つの混合であると考えます。冷徹なリアリズムによるところも多いのですが、国際関係の中で、「恩返し」という気持ちが働くこともあるのです。

私は、外国を見るときに<注目度、好感度、知識の正確さ>の3つの観点から考え、また、日本を外国にアピールする際には、これらの観点を上げるように努めてきました。

今回の震災で日本についての報道が世界各国でなされ注目度はこれまでにないほど上がりました。しかし、多くの報道がなされれば正しい知識に結びつくというわけではなく、多くの情報がいくつかの事柄に集約されそれが繰り返し流れることによりイメージが固定化され強固なものとなります。それは、時には、現実の姿からは程遠いものとなってしまうことがあります。先ほど述べた、日本全土を「福島原発周辺地域」のように捉える見方は、その一つの典型です。これは、今回の教訓の一つです。足りない情報を埋め外に与えるパーセプションを、現実に近い正しいパーセプションを与えるためには、正しい情報をメッセージ性の強い形で発信していく必要があります。その意味で、今回、中韓両国の首脳に現地に行ってもらったことは大きなインパクトを持ったと思います。

国際政治学と歴史学の泰斗である入江昭先生が震災後の様子を見て次のようにおっしゃったと人づてに聞きました。『震災後の現地の状況は、見渡す限りがれきの山であり、66年前の第二次大戦後の風景とダブってみえた。しかし、66年と今とは大きな違いがある。66年前、日本には、国際社会の中で友達は一人もいなかった。ところが、今は世界にたくさんの友達がいて日本に手を差し伸べてくれている。このことは戦後、日本がやってきたことが評価されているということである。このことを決して忘れてはいけない。』今後、日本がどう進むかを考えるときに、多くの示唆に富む言葉と思います。


 
 
≪プロフィール≫

1957年11月5日生

学歴
1980年3月
東京大学 文学部卒業
1986年10月
ジュネーブ大学修士(国際関係論)

職歴
1980年4月  外務省入省
1981年6月  在フランス大使館
1983年6月  外務省大臣官房
1984年11月 アジア局南東アジア第二課
1986年8月  北米局安全保障課
1989年1月  経済協力局無償資金協力課
1991年8月  在中国大使館 一等書記官
1993年11月 在ジュネーブ国際機関日本政府代表部 一等書記官
1995年8月  内閣法制局 参事官
1998年8月  総合外交政策局原子力課長
2000年8月  経済協力局有償資金協力課長
2002年8月  在ベトナム大使館 公使
2005年4月  在アメリカ大使館 公使
2008年8月  国際法局 審議官
2009年7月  危機管理担当、南部アジア部担当 審議官
2010年4月  現職
その他の履歴
2001年4月-2004年3月  経済産業研究所 シニア・フェロー
2001年10月-2002年9月 上智大学法学部講師
著書
『戦略的な援助をどう実現するか ベトナムにおける日本の取り組み』
(2006年、GRIPS開発フォーラム)
『パブリック・ディプロマシー『世論の時代』の外交戦略』
(2007年、PHP出版社)(共編著)
『ビジネスパーソンのためのツィッター時代の個人「発信」力』
(2010年、ディスカヴァー・トゥエンティワン)