事業創造大学院大学

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お知らせ

2016.11.04 お知らせ

誌上講義:成功するコーポレートベンチャリングの要諦(岸田 伸幸 教授)

既存企業の新規事業創業をコーポレートベンチャリング(以下、CV)と呼びます。自社シーズからVBを立ち上げる社内ベンチャー、既存事業を独立させるカーブアウト、他社と共同出資でVB設立するジョイントベンチャーなど様々な類型があります。(図表1)

 

図表1 Keilによるコーポレートベンチャリングの様態分類(クリックで拡大します)

 

但し、MBA経営学が注目するCVは、この概念が登場した80年代末から現在迄かなり変化しました。最初は既存企業の新規事業一般について論じていたCV論ですが、現在は主に大企業がベンチャービジネス(以下、VB)やベンチャーキャピタル(以下、VC)の手法を活用して取り組む野心的な新事業開発について論じています。

 

1.CV研究の現況

 

経産省管轄のVB支援団体VECによる調査では、大企業にとってCVは、意思決定がVBに牽引されて「スピーディになる可能性が生じる」、「イノベーション意識が向上する」、社内で研究開発可能な分野でも「時間や人材を買う」などのメリットが分かりました。但し、CVに「財務収益」を求める大企業は少なく、成功指標(KPI)を設定しきれていない現状も判明しました。

 

CV成功に向けた大企業側の課題には次の5点が指摘されました。①トップのコミットメント、②大企業内キーパーソンとのコンタクト、③オペレーションの速度とガバナンスのバランス、④VBと協業するための大企業側の管理コスト、⑤CV投資人材育成と人脈の構築。

 

他方、VBにとってCVは、「資金以外のニーズを満たしてくれる」が、「大企業カラーが着いてしまう」という、トレードオフ問題が指摘されています。
出典:pp. I-85~88, VEC(2015)

 

2.CV成功の経験則

 

上述VECの先行研究成果は、VC勤務時期にN T T 、日立、ソニーなど有力企業のC Vに様々な形で関わった経験を踏まえCV論に取り組む筆者としては、起業家がC Vにどう処すべきか示せていない点が残念です。起業家は、どうしたら大企業とWin-Win関係を結べるのでしょうか。その重要なコツは、大企業とベンチャーの境界を上手く構築することです。

 

組織で動く大企業でも、VBに接する末端や、重要意思決定に係る中枢とでは、個人の関与が大です。また、VBは起業家中心に人的に動きますが、成長発展に連れた組織化が欠かせません。両者の境界領域の何処かに、組織と個人が交わる仕組みを上手く構築することが大切です。大企業組織と起業家との直談判では、何かと行き違いが生じがちだからです。

 

このためVBに理解がある大企業は、組織も動かせる人材個人に大きな権限を持たせて、CVに当たらせています。即ち、両者間の大企業側に組織と個人の境界があり、大企業とVBは人対人で接します。古くはミネベア、近年ではヤフーJAPANなどがそうでしょう。

 

また、大企業と協議共創する仕組みを構築し成功したCV例があります。即ち、両者間のV B 側に組織と個人の境界があり、大企業とVBは組織対組織で接します。三菱商事とネットワンシステムズの事例では、新機材/システムの徹底的な試験研究を媒介としたPDCAサイクルで経営全体を回す仕組み(図表2)を構築し、派遣役員を通じて監督する大企業へ適時に実証的なKPIを提示し、ベンチャー経営の自由度を確保しました。

 

図表2 ネットワンシステムズのCV投資と試験研究で回すPDCAサイクル(クリックで拡大します)

 

3.まとめ:エコシステム理論からの提言

 

シリコンバレーや先端バイオなどイノベーションが活発な地域や業界にはエコシステムと呼ばれる社会的仕組みがあります。その理論的解明と今後の戦略的産業や地域経済への応用実践がMBA経営学の課題です。他方、大企業グループには系列システムなど固有のビジネスシステムがあります。この見地からはCVは、未熟なエコシステム下のVBが大企業のビジネスシステムを「借用」することであり、同時に、既存企業がVBを利用して自らのビジネスシステムのイノベーション能力を改善することです。

 

従って、CV成功の要諦は、CVを既存企業の信用や事業資源とVBの技術やノウハウとの一過性取引に終らせず、共創的関係を持続させる仕組み作りにあるのです。

 

教授
岸田 伸幸

【担当科目】ビジネスプラン作成法、アントレプレナーシップ論、演習Ⅰ・Ⅱ

 

早稲田大学政治経済学部卒。早稲田大学ビジネススクールMBA(MOT)課程修了。医療情報イノベーションエコシステム設計法の研究で博士(商学)号取得(早稲田大学2013年)。
日本長期信用銀行系VC日本エンタープライズデベロップメント㈱入社。主に中小企業PEとIT系VC投資担当。1999年、安田企業投資㈱投資部マネジャー。バイオ・医療系VC投資と投資本部担当。約15年で30社投資し10社がEXITした。MBA取得後、経営コンサルタント事務所コーチャーズ・オフィス設立。事業開発、戦略、幹部教育他で企業を支援。

 

※この内容は、広報誌(J-PRESS)の記事を転載したものです。
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