副学長 誌上講義 ~AC時代にますます重視される4つのAI~
産官学連携担当副学長・教授 黒田達也
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http://www.jigyo.ac.jp/faculty/fulltime/kuroda-tatsuya/
1)BCとACで変わる社会
コロナ禍が世界を席巻し、コロナ前(BC: Before Corona)とコロナ後(AC: After Corona)で紀元前後のように生活様式や発想を変える必要があると多くの識者が説いている。インターネットの登場で21世紀は距離による情報格差がなくなることが期待されたが、実際はリチャード・フロリダがいうように暗黙知の価値が高まり、情報サービス産業の都市への集積から人口の都市集中が進んだ。しかしながら、コロナ禍はface to faceの情報コミュニケーションを困難にし、単なる形式知を超えた情報もある程度のクローズドなネット空間でやりとりせざるを得なくなり、「中間知」というべき領域の情報価値が生まれつつある(2020.4.29日本経済新聞「大機小機」より)。
社会が集積の価値を弱め、集団のボーダーを弱めることによって、組織の流動化や時間や空間の区切りが曖昧になっていく、それが我々の社会を大きく変えていくことになるのではないか。本稿ではBC時代から日本社会にとって変革の鍵となると指摘していた「3つのAI」に新たなAIを一つ加えて、AC時代にそれぞれどのように変容するかを検証してみたい。
2)3つのAI
BC時代から令和の時代に重要な概念として「3つのAI」を紹介してきた。すなわち、Artificial Intelligence(人工知能)、Alien Inside(外国人と多文化共生)、Agricultural Innovation(農的技術革新)の3点である。
人工知能に関しては、第3次AIブームがややピークアウトした感があったが、AC時代に入り、人が直接触れる領域が狭まると同時にAI搭載ロボットの活躍領域が広がること、厳格な個人情報ルールのボーダーが弱まり社会的な安心・安全確保のためにはビッグデータの活用が優先されるとの認識が広まること、あらゆる領域で人手間や人の移動を省くためのDX化が進むこと、などにより、もっと私たちの仕事や生活に浸透していくと思われる。
外国人と多文化共生に関しては、コロナ禍でインバウンド旅行者が消滅し、国内にあっては一時的に技能実習生中心に解雇が横行した。しかし、リモートワークでサイバーコミュニケーションに慣れ、コロナの情報とともに世界の情報を見聞きする機会が増え、情報の世界での国境の垣根はむしろ下がった感がある。自動翻訳などの技術の進展により、言語の壁も取り払われると、外国人に対する許容度も広がるだろう。
一方、ヒトとモノの行き来については心理的な制約が続くように思う。BC時代より頻発する災害時にライフラインと物流、医療・福祉などが閉ざされた地域で一定程度必要とされることは認識されてきた。今回のコロナ禍で、地域や国ごとに一定の社会インフラのバランスの取れた充足が必要であることは再認識されたと思う。特に食とエネルギーはその最たるものであり、地域環境に寄り添う技術革新、地域のヒト・モノを持続的にサポートするための技術革新がAC時代には必要となるのである。
3)もう一つのAI
最後に今回のコロナ禍でもう一つのAI、Astronautic Imagination(宇宙飛行士的想像力)を大切にしたい。人類の共通の敵であるコロナウィルスを前にして、一部国益剥き出しの政争も露呈しているが、本来、人類は共通の敵を前にすると団結するものである。宇宙飛行士は宇宙から青い地球を眺めると、例外なくその上で争いが絶えない人類が愚かに思えるそうである。国や地方の違いも意識される一方で、全体の調和や協力が必要なこともコロナが人類に突き付けた課題である。
こうした「4つのAI」を意識してAC時代を希望をもって生きていきたいものである。